しんとらの雑記帳

スケートメイン

現行ルールの成果と課題

<はじめに>

仰々しいタイトルな割に内容があれなのはお察し。

採点競技のルールは絶対的なものではなく、常に最善を模索していくものだと考えています。だからこそ議論の価値があり、数年に一度大規模な改正が行われるのでしょう。

以下、主にシングルのルールについての整理となります。

<成果>

・URの導入

これは多回転ジャンプの導入、実施回数に大変寄与したルールだと思います。以前だと4Tの回転不足は、3Tの基礎点からGOEもマイナス評価されたので、トライ損な部分がありましたが、クッションが設けられることで、導入の価値が生まれました。男子がここまで四回転時代になったのはこのルール導入なくしてあり得なかったと思います。これは大きな成果と評価しています。

・後半ジャンプの加点

賛否あると思いますが、成果でもあり、課題でもあるルールだと思います。成果面では、SPの前半に固められがちであったジャンプが分散し、選手ごとに個性をより出しやすくなった点は大きな評価ポイントです。

 

<課題>

・後半のジャンプ集中

これは特にFPの7ジャンプ後半集中(次シーズンからは男子も7ジャンプになるので、以下7ジャンプ前提で書きます)が一部問題視されたというもので、改正案でも1.1倍されるジャンプの数を制限するという案が出されています。この問題提起は、ウェルバランスに大きくかかわっており、またそれを行った選手が成果をあげたためにおこったもので、ISUが当初想定していなかった事態だと思います。個人的には、ウェルバランスはプログラムの作り次第で如何ともなりますし、後半に集中させて基礎点をあげる戦略も十分ありだと思うので、強制的に制限する必要はないと思います。ただし、あまりに音楽と乖離が見られる場合はPCSに評価を反映させる必要はあると思います。

・フリーは「フリー」なのか

SPが2分50秒以内でジャンプ3、スピン3、ステップ1を行うのに対し、FPでは4分±10秒でジャンプ7、スピン3、ステップ1、コレオシークエンス1を行わなければならないというのが現行ルールです。FPの方が1エレメンツにかけられる時間が短く、実際の演技を見てもSPの方が表現の面では自由度が高いという印象を抱いています。ではこの問題をどうするかというと、ジャンプの個数を6つにすればよいと思います。ただし、プログラム中で6つまでしか実施してはならないというのではなく、実施はこれまで通り7つまで可能とし、基礎点の高い6つをジャンプエレメンツとしてカウントするというものです。戦略としては、6つのみを組み込む場合TRや多種多様なムーブメントを組み込むことが可能になり(つまりはPCSでより高評価を引き出しうる)、技術面ではリカバリーの幅が広がり、ミスしても技術点の失点をより減らしうるのではないかと思います。今回の改正案で提案されることはありませんでしたが、もし提案されるとすれば変にコレオエレメンツ等を増やすのではなく、その時間をどうするかは選手に任せればよいと思います。

・男子のPCSについて

これはオランダの提案通り、SPの係数1.2、FPの係数2.4を支持したいと思います。というのも、TES:PCSが1:1になるのが理想だと思っているからです。男子以外のカテゴリーではトップ選手の点数を見たときに、多少の誤差はあれどおおむね1:1の範囲におさまっており、PCS係数変更の必要性は見出しがたいのですが、男子の場合はここ数年の4回転複数種類複数回導入によりPCS満点(100点)以上のTESが見られます。頻繁にみられるわけではありませんが、トップ争いを考えると看過できない問題であると思います。大体SP60点台、FPは120点台が今までのトップスコアになるので、それにそろえると1,2、2.4の係数になるのだと思います。オランダがどのような思惑で上記の係数を出したかはわかりませんが、私も上記係数にしたほうがいいのではないかと考えています。

・GOEの判定とPCSの評価

これまたオランダに先を越されてしまいましたが、GOEの判定ジャッジとPCSの判定ジャッジは別であってほしいと思います。理由は、GOEは部分の判定であり、PCSは全体を見て評価しなければならず、ここまで複雑で多岐にわたる採点規則の中で、ジャッジ一人がそこまでできるのかという問題があるからです。現状の採点を見る限り、そこまで大きな破綻をきたしているわけでもなく、妥当な範囲内に収まることが多い一方、技術点とPCSの相関関係がないとも言い難い面があります。ただし、これは理想論であって、実行に移すのは費用面で無理だと思います。提言としては重要だけれども、実際問題無理というやつです。ISUのルール改正はチャンピオンシップのみならず、ローカル大会にも及ぶため、上記の改正をするとローカル大会が運営できるのか疑問です。また現在9人のジャッジの上下カットが妥当性を保証している部分がありますが、もし5人(これはオランダの提案の人数)で上下カットなしで点数に反映されると、選手に不利益が生じる可能性があります。以上の問題から実行に移すのは困難なのは明らかなのですが、改正可能であればしていただきたいと思います。

・コンビネーションジャンプについて

現行採点では単純に基礎点を加算するだけですが、3T-3Tのセカンド3Tと4T-3Tのセカンド3T、もっといえば単独3Tとの点数が同じで果たしてよいのだろうかという問題があります。もし改正するとなると、すべての組み合わせに基礎点を定めなければならないので大変面倒であり、かといってボーナスを付すにしても線引きが難しい課題があります。これはGOEの係数の問題で解決できると思っているので、以下の項で記します。

・GOEの加点幅

11段階評価がほぼ確定的になりましたが、問題は加点係数をどうするかという問題です。個人的にはジャンプ、スピン、ステップ、コレオシークエンスごとに係数を変えるべきだと思います。

①ジャンプ

基礎点に応じて係数を変える。たとえば+1の場合基礎点の10%をGOE実数値とすると仮定します。すると3T-3T(8.6)の+1は実数値0.86になり、3Lz-3T(10.3)の+1は1.03になります。ほんのわずかではありますが、3Lz-3Tの3Tの価値を反映することは可能になります。これは4T-3T(14.6)と4Lz-3T(17.9)など、高難度ジャンプのセカンドを評価しようという目的から考えたもので、基礎点の何%にするかは議論の余地があります。

②スピン、ステップ、コレオ

成案はありませんが、SPに占めるスピンの点数とFPに占めるスピンの点数の割合があまりにも異なるのは問題があるように思います。かつてはスピン4つ時代でなんとか差をつけていましたが、3つになってからはSPとFPの差別化がなかなか難しくなっており、基礎点を変えるわけにはいかず、GOEでどうにかするしかないような気がします。ステップに関しては、基礎点をもう少し上げてもいいと思いますし、GOEの幅もジャンプよりもおおらかでよいと思います。

 

ちょっと話はそれますが…

<雑>

・PCSの評価

これは各ジャッジ異なるのですが、各項目同じような点数を並べるジャッジもいれば、積極的に差をつけて評価するジャッジもいます。これはルール改正云々というよりは、ジャッジセミナーで解決しそうな問題ですが、各項目について積極的な認定・不認定をしていただきたいと願っています。

・レビュー

主に回転不足についてですが、回転速度の速い選手だとスローの精度により判定が変わる場合があると思います。たとえば、Youtubeの×0.25倍と、TVのスロー再生だと判定(足りているか足りていないか)が変わる可能性があるのと、角度によっても見え方は変わるのでカメラ台数の問題もあります。この設備面については詳細に明らかにされていないのでわからない部分も多いですが、少なくともチャンピオンシップにおいては精度の高いスローと、豊富なアングル(つまりはカメラ台数)の情報をテクニカルパネルとジャッジには提供してほしいと思います。

 

<最後に>

以上つらつら書いてきましたが、現行ルールはこれまでの議論をくみ取り、完成度は高いものであることは間違いありません。ただし選手のレベルがルールを超えた部分も存在し、そこに関しては対応する必要があります。今回記したのはあくまでも個人の感想であり、ISUや各国スケート連盟の意図をどこまでくみ取れているか怪しい部分があるということは述べておく必要があります。また今回の執筆目的は、今後よりよいルールにしていくためにどのような問題と対案があるかを提示するためであり、採点が大幅に誤っていることを論じるつもりは毛頭ありません。この点留意して読んでいただければ幸いです。