0 はじめに
おそらく、フィギュアスケートを見ていて一番わかりにくいのが回転不足だと思います。この分かりにくさが見た目と実際の得点とのギャップを生み、「陰謀論」なるものを生み出したのでしょう(このように過激なものでなくとも、疑問を抱いている方は多いのではないでしょうか)。今回はテクニカルハンドブックと、これまで様々なカテゴリーの選手を見てきた私の経験を踏まえ、回転不足について考察していきたいと思います。自分で回転不足を見極めることができれば、少なくともTESのもやもや感はなくなるはずで、今回の記事はその解消を目指しています。
*出典
18-19シーズンのテクニカルハンドブック
1 定義
回転不足には二種類あります。
〇UR(アンダーローテーション、プロトコル上表記<)P.19
昨年までは1/4<X<1/2のジャンプをURといいましたが、今年は少し変更が加わりました。これは日本語版が出てから加筆します。(おそらく1/4≦X<1/2だと思いますが)
〇DG(ダウングレード、プロトコル上表記<<)P.20
1/2≦XのジャンプをDGといいます。
2 問題の所在
テクニカルハンドブックでは、少なくともどこが離氷でどこが着氷なのかが示されておらず、これがファンの間で回転不足か否かが分かりにくい、あるいは議論になっている原因かと思います。
よく引用されるのは下記の記事です。
特に注目すべき記述は、下記のものでしょう。
ジャンプとは「踏み切る足のブレード(スケートの刃)が氷から離れた瞬間から、着氷する足のブレードが氷に着くまで」をいう。ジャンプを見る際、ブレードが氷を離れた時点を覚えておき、どの角度でブレードが着氷したか、を基準に判断すればいい。
現状、離氷・着氷について述べたものとしてはこれが一番詳しいものだと思います。ただこの記述も不明瞭な点があります。それは、「着氷する足のブレードが氷に着くまで」という部分で、トウがついたところなのか、ブレード全体がついたところなのかがよくわかりません(図表の中ではトウをついている部分に見えますが、近年の傾向をみるにブレードがある程度ついたところで判断しているように個人的には思います)。またこれは平松氏の発言(考え)であり、ISUの共通認識とは限らないという点にも問題があるでしょう。コミュニケーションやハンドブックに書かれていないからです。
選手のジャンプの跳び方が多種多様であるために、なかなか定義しづらいというのは理解できるのですが、映像技術も進歩してきた現在、何らかの説明がほしいところです。
以上問題点について記してきましたが、実例を見ないとよくわからないでしょう。次節では2018年欧州フィギュア選手権女子を題材に、回転不足について考えていきたいと思います。
3 個別具体的検討
*出典 女子プロトコル
注目すべき点は
①進行方向
②エッジ
③体の向き
以上三点を総合的にみることで、回転不足判定の精度があがります。意外と③体の向きからわかることも多いので、エッジだけでなく全体を見るように心がけましょう。
参考動画
A
①進行方向
ルッツの場合は割と見やすいと思います。
②どこで離氷したかは写真左と私は考えています。
着氷はブレードの中心部が氷に接触しているところを目安にすればよいという持論
のもと、写真右を着氷地点と考えました。
③体の方向
明確に離氷時と着氷時の体の向きが違います。
B
3Lzの2例目です。先ほどとはカメラのアングルが違います。
C
次は3Tについて考えてみます。
①セカンド3Tの場合は進行方向よりも②、③に注目するとわかりやすいです。
②③ブレードの位置、体の向きともに異なることが分かるかと思います。
A-Cの例からもわかるように、体の向きに注目すると、エッジが見えにくい場所で飛んだジャンプの回転不足についてもわかりやすくなります。
D
上記とは系統が違うアクセルジャンプの回転不足について考えたいと思います。
①アクセルはほかのジャンプと違って前向きに飛ぶので、進行方向を見ることも有用です。
②③については前述のとおり、ブレードの位置、体の向きともに90度以上足りていません。結果的にURの判定となりました。
E
twitterで出したクイズの答えです。回転不足でないのは一つのみです。誰のジャンプは足りているのかはさらなるクイズにするとしましょう。
4 おわりに
以上、非常に簡潔ではありますが、私が現時点で把握している回転不足の考え方を紹介してきました。回転不足については、サンプルを見れるだけ見ることが一番の勉強なので、実際の演技とプロトコルとを見比べながらみることが大変重要です。
その際お勧めできるサイトとして、Figure skating results | RinkResultsが便利です。勉強の際使ってみてください。
またこの選手のこのジャンプはどうなんだということがありましたら、
に送っていただければ、答えられる範囲で返信いたします。