しんとらの雑記帳

スケートメイン

スタニスラワ・コンスタンチノワ引退に寄せて

0 はじめに

 
 
 
 
View this post on Instagram
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A post shared by Stanislava Konstantinova (@stasya_konstantinovaa)

www.instagram.com スタニスラワ・コンスタンチノワが1/20、インスタグラムで現役引退を表明しました。これからはコーチ、振付師としてフィギュアスケートにかかわっていく予定だそうです。(以下スタニスラワ・コンスタンチノワをスターシャと表記します。) 私、しんとらにとって、スターシャは近年最も応援していた選手の1人であり、特別なスケーターです。スターシャファンの立場から、彼女の歩みを考えたいと思い、記事にします。(公開されている動画についてはすべて目を通したつもりですが、抜けがあるかもしれません。ご了承ください。) 

 

1 ノービス、ジュニア1年目―2010~2014年

 確認できる、最初に出場した大会は2011年2月にサンクトペテルブルクで開かれた大会です(102.65)。10-11シーズンはこの大会のみ出場でしたが、続く11-12シーズンはタリントロフィーで国際大会デビューを果たします(76.58)。スターシャが本格的に競技会に出始めたのは12-13シーズンからで、サンクトペテルブルクで開催された大会を中心に9試合出場し、総合得点120点台で終わることが多かったです。13-14シーズンからはCup of Russiaにも出場し始め、第3戦ではツルスカヤ、ベズルコワ、ドリンキナに次ぐ4位になりました(144.44)。総合得点は140点前後が多かったです。

youtu.be

 

2 出会いー14-15シーズン

SP:The Sleeping Beauty

FP:The Bolt(継続プロ)

youtu.be

www.youtube.com

  私が初めてスターシャと出会ったのは、ロシア国内で開かれている大会の動画でした。ミハさんがアップロードした動画を何気なく再生していたときだったと思います。音楽の表現に一目惚れしました。当時の私はスターシャのこのプログラムについて以下のように述べています。  

迫力ある演技。15才ながらまがまがしさまで感じられる。
魔女の威圧感、そしてこちらを誘惑する表情、中盤には笑顔がかいま見れ、力強いステップでしめる。まだまだ”若さ”が残る魔女ですが、このプロ個人的には結構すきです。ameblo.jp

 この1つ前のシーズンの総合得点の最高点が146.36でした。このシーズンの最高点は165.72。3-3のコンビネーションジャンプを組み込み、より難度の高い構成で滑りきることができ、大きくステップアップしたシーズンと総括できると思います。

 

3 JGPSサブ、国内大会優勝ー15-16シーズン

SP:The Sleeping Beauty(継続プロ)

FP:Alegría

 サンクトペテルブルグ杯第1戦優勝といいスタートとなったシーズン。その後はロシアカップにも出場し3位(175.75)、4位(168.04)。出場はかないませんでしたが、JGPSのエントリーリストに名前がのり、レオ・ショイ・メモリアル、タリントロフィーの2つの国際大会で優勝。特にタリントロフィーでは総合得点191.86と前年の総合得点ベストである165.72を大きく更新しました。

youtu.be

youtu.be

 シーズン後半のサンクトペテルブルク選手権ではSP、FPともに1位、総合得点197.89で優勝、ロシアカップファイナル(183.68)、冬季スパルタキアーダ(195.24)も優勝。その才能が一気に開花し、飛躍のシーズンでした。SPのTES平均は36.13と安定していたものの、FP崩れるパターンが多く、その改善が次のシーズンの課題となりました。

youtu.be

※TheFSRussiaに多くの動画が上がっていますが、一部音ずれなどがあります。プログラムの正確な理解のためには、他にアップロードされている動画を見ることをおすすめします。

 

4 サンクトから世界へー16-17シーズン

SP:Swan Lake

FP:Alegría(継続プロ)

◇このシーズンからコンスタンチノワと並行して、愛称スターシャでツイートすることが増えました。

 シーズンが始まる前に、ロシアスケート連盟からナショナルチームが発表され、スターシャはジュニア女子の正代表となりました。このシーズンもサンクトペテルブルクで開かれた大会が第1戦です。スケーティングひと蹴りがより伸びるようになり、音楽の表現が豊かになるなど、8月の時点でここまでできるようになるとは思っていなかったのでとても驚きました。

youtu.be

 JGPチェコ大会のエントリーが発表されましたが、途中で他の選手と入れ替えに(テストスケートがよくなかったという情報が当時ありました)。その後第4戦ロシア大会でJGPデビューを果たします。FPは昨シーズンからの継続プログラムですが、この独特な表現・個性でこの大会からスターシャを知った方も多いと思います。ミスはありましたがこの大会は2位(175.20)。次のJGPドイツ大会は4位(172.06)で惜しくもJGPFを逃しました。

 以降の国内大会ではシニアカテゴリーで出場しています。ロシアカップ第3戦からヘッドセットが加わり、FPの最後にChSqが加わりました。3Loの入りを変えたり、この時期は試行錯誤の期間だったと思います。タリントロフィー(186.97、1位)、中露青少年冬季運動会(164.60、3位)といった国際大会の舞台で経験を積み、あの伝説のナショナルFPを迎えます。

youtu.be

 SPに関してはまずメイクがJGPから変わりました。単独ジャンプもジュニア規定の3Loではなく3Fにしました。着氷が少し乱れましたが、68.34をマークし、7位につけます。

 FPの予定構成は、3Lz-3T 3Lz / 3F-1Lo-3S 3Lo 2A-2T 3F 2Aでした。冒頭のジャンプはきれいに決めましたが、2本目の3Lzの助走で躓いてしまい、ジャンプが1つ実施できませんでした。どうするのかと思っていたら、2A-2Tの後のスピンの回転数をいつもより少なくして時間を稼ぎ、振付を多少変えてここで3Lzをリカバリーしたのです。リアムタイムでこの大会を見ていましたが、これには本当に驚きました。この咄嗟の判断は総合得点200点超えに寄与し、初めてのロシアナショナル6位で終えました。

 2月に、ジュニアカテゴリーでは最も大切な大会である、ロシアジュニアナショナルに出場しました。SPはStSq途中のツイズルで少しミスが出ましたが、他のエレメンツはすべてGOEプラス評価で実施し、70.25をマークし2位につけます。迎えたFP、コンビネーションの両足着氷とジャンプの回転の抜けがありましたが、他のエレメンツの加点で技術点を稼ぎ、PCSが高く評価されてFP3位、総合で2位に入りました。この時のキスアンドクライの喜びは今になっても明確に覚えています。この大会の結果を受けて、ロシアスケート連盟から、ジュニアワールドのロシア代表に決まったことが発表されました。

youtu.be

 ジュニアワールドまでの間に、コンスタンチノワを特集した記事がGSに上がりました。英語で読める記事はとても貴重なので共有したいと思います。

www.goldenskate.com

 ジュニアワールドは、これまで絶対レベル落としてこなかったスピンでレベル落としたり、スピードも足りなかったりと、難しい大会になりました(162.84、6位)。

 このシーズンを総括するならば、洗練と安定だと考えています。1つ1つの動作の見せ方、スケーティングとムーブメントの調和。14-15シーズンはSP、FPともにムラ、15-16シーズンはSPが安定するようになって、16-17シーズンはFPのミスが減り、少しずつですが着実に成長したシーズンでした。

 

5 ロシア選手権4位、世界選手権出場ー17-18シーズン

SP:Corazón Espinado / I Like It

FP:Anna Karenina

◇このシーズンの前半については、私自身が休養期間だったため、少し記憶が曖昧な   

 部分があります。

 このシーズンの初めに国際クラス・スポーツマスター(МСМК)が授与されました。連邦政府公認の栄誉称号で、年金支給などの恩恵を受けることができるものです。(制度については下記のリンクを参照ください。)

blog.livedoor.jp

 6月に強化選手の発表があり、スターシャがシニアに移行することがわかりましたが、7月にコーチであるチェボタリョワさんからは、国内の大会ではシニアとして出るがジュニアの大会にも出るという趣旨の発言がありました。8月にはジュニアのテストスケートに参加、サンクト杯ではシニアカテゴリーで出場し201.76で3位表彰台、9月のJGPベラルーシ大会でも銅メダル(181.98)。メダルは獲得したのですが、少し慎重で不安な部分が残る内容でした。

 この流れを断ち切ったのがロシアカップ第2戦です。今大会はロシアナショナルの予選大会の一つでプレッシャーのかかる試合であったことが予想されます。

youtu.be

 ターンからの2Aを鮮やかに決め、次のStSqでは1つ1つの動作にキレがあり、スケーティングもとてもよく伸びています。今シーズンから後半に組み込んだ3Lz-3Tのコンビネーション、続く3Fも着氷し、最後のスピンはいつもよりスピードがなかったですが、丁寧にこなしました。このSPはスターシャの武器であるダイナミックなスケーティングと、気迫のある表現がとてもよく出ていたプログラムだと思います。シーズン序盤のあのスターシャはここにはいません。素晴らしい実施でした(207.85、1位)。

◇SPの曲は自ら選んだとのこと。

 ロシアカップ第3戦でも3位表彰台(194.68)でロシア選手権の出場がほぼほぼ決まり、以降は国際大会のシニアカテゴリーで試合経験を積みました(ワルシャワ杯2位〈174.43〉、タリントロフィー1位〈190.75〉、ゴールデンスピン1位〈199.68〉)。

 国際大会で結果を出して迎えたロシアナショナル。SPでは最後の3Fの抜けが大きく響き10位スタート。体の動き自体は悪くなかったので、FPでの挽回を期待していました。

m.vk.com

 スターシャ史上最高のFPでした。スピンステップ全てLv4を獲得し、GOEマイナスがひとつもないクリーンな実施でした。スケーティング一蹴りの伸びをしっかり見せる前半、音楽の変わり目にあわせて始まったStSqでは曲の持つキャラクターをターンと振付で見事に表現。後半は曲の高まりにジャンプが決まることでさらに盛り上がり、ChSqは前半の明るい軽やかな雰囲気のStSqとの対比で、感情をものすごくこめていました。最後に大きくガッツポーズ。この演技をリアルタイムで見ることができて本当に幸せでした。このFPで3位、総合4位とロシアナショナルの自己最高順位でフィニッシュ。スターシャファンにとっては忘れることのない大会となりました。

◇この大会後のチェボタリョワコーチのインタービューでスターシャが4Sに挑戦していることが明かされました。

◇ユーロの結果を受けて、スターシャが五輪の補欠選手に選ばれました。

 年があけて1月、ロシアジュニアナショナルのエントリーにスターシャの名前があった時は驚きました。SPはコンビネーションがつけられず12位発進。FPどうなるんだろうとすごく不安でした。

youtu.be

 どきどきしながら見ていたFP、目立ったミスは3Fを両足気味で降りてきたことくらいで、他はしっかりと質の良い実施でした。ロシアナショナルと比べると、このジュニアナショナルは少し淡々とした印象を受けるのですが、それでもPCSは全体1位の評価でFP2位、総合3位となり昨年に引き続きジュニアナショナル表彰台にあがりました。

タチアナ・タラソワさんがスターシャを褒めている記事を共有します。

rsport.ria.ru

 3月には、スターシャにとって2度目の世界ジュニアがありました。SPはコンビネーションに回転不足があり62.63で5位発進。迎えたFPでは3Fのアテンションこそとられましたが、そのほかのエレメンツを堅実にこなし総合4位で終えました(186.35)。前年のFPが悔しい出来だったので、ここでまとめることができてとてもうれしかった。フィニッシュ後の安堵の表情がここまでの苦労を物語っています。

 この大会が終わってすぐに、メドベージェワが怪我のためワールド欠場、かわってスターシャが出場することになりました。世界ジュニアが終わったのが3/10、世界選手権のSPが3/21だったので、調整がとても難しかったと思います。最初で最後となった世界選手権はほろ苦いものとなりました(153.03、19位)が、この大会に出ることができてうれしいということを述べていたのでいい経験になったと考えています。

◇SP後のインタビュー記事rsport.ria.ru

 17-18シーズンの成長したところとして、以下の3点をあげたいと思います。

①2A前の一呼吸置いた感じが軽減。

②身長が伸び、迫力が増し、スケーティングのパワーもアップ。

③腕がよりしなやかに使えるように。

shintorasports.hatenablog.com

 

6 試練、洗練ー18-19シーズン

SP:Malagueña

FP:Anna Karenina(継続プロ)

 6月にロシア強化選手リストが発表され、シニア女子の代表に選ばれました。同月下旬にはGPSアサインが発表され、スターシャはフィンランドとフランスの二大会に出場することになりました。GPSに出場、それも2枠と聞いたときにはとてもうれしかったです。

◇テストスケートが始まる前に、レスガフト体育入学に入学し、コーチの勉強をする予定であることが発表されました。

fsrussia.ru

◇短期ではありますが、8月にラファエル・アルトゥニアンのもとにコリャダとともに練習に行きました。3Lzの入りが変わったのは、この時の指導が影響しているのではないかと思います。

 9月上旬にテストスケートを終え、9月下旬のオンドレイ・ネペラ杯では3位(180.02)、10月上旬のフィンランディア杯で4位(187.13)。スターシャの場合、シーズン序盤はゆったり入ることが多いのでまずまずといったところでした。

◇ネペラ杯後のインタビューで猫を飼い始めたことが述べられています。

 ヘルシンキ大会のSPは前半素晴らしい出来だったのですが、後半の3Fで転倒。それでも3位との差0.61のSP4位、表彰台が狙える位置につけました。FPはジャッジスコアに0が3つ、それ以外はすべてGOE+1以上のクリーンパフォーマンスでFP3位、最終結果2位と大健闘(197.57)。でもまだまだこんなものではないでしょう?とファンの目にはそう映っていました。 

◇(クリーンパフォーマンスはロシアナショナル2018FP以来2回目)

youtu.be

ヘルシンキ大会後のインタビュー記事。

fs-gossips.com

特に印象に残った部分はここ。

This season I let go of the situation a little bit, I stopped scolding myself so much as in previous years. This doesn’t lead to anything good. You need to love yourself. And accept your bad results. Because it’s a part of a person, a part of what happened to him.

 続くフランス大会ではSPでまさかの10位。FPでは予定構成で滑りきり4位、総合5位と巻き返しました(189.67)。GPFにいける可能性があっただけにSPの出遅れがとても惜しかった。

 12月の大切なロシアナショナル。SPは落ち着いた演技でSBの74.10、FPは当時のこのつぶやきが率直な感想でした。

スターシャ、よく踏ん張った。コンディションがパーフェクトでなくても、できることをしっかりできる力がついた。シニアトップの成績おめでとう。 

youtu.be

 この年のロシアナショナルはシェルバコワ、トゥルソワ、コストルナヤのジュニア勢3選手が表彰台を独占し、シニアのトップがスターシャでした。このナショナルの結果をもってスターシャはヨーロッパ選手権の代表に初めて選ばれました。このシーズンのハイライトはこのロシアナショナルになるかなと思っていたら、そうではなかった。激動のシーズン後半が始まります。

 まずはヨーロッパ選手権です。SPは3Lzが抜けて後半のコンビネーションも転倒、11位スタートとかなり厳しいものでした。FPでは多少のミスは出ましたが踏ん張って132.96で2位、総合4位まで上がりました。が、このヨーロッパ選手権で表彰台に乗れなかったことが、ワールドの選考に大きく響きました。

◇後日のインタビューで、ユーロのころ左足首の怪我が1番ひどかったと語っています。いつもよりスピードがなくて少しかたい印象を受けたのはこの怪我が影響していたと考えられます。

ヨーロッパ選手権からロシアカップファイナルまでの間に、NBC Sportsからスターシャ関連の記事が出ました。

olympics.nbcsports.com

I don’t think it will be a revenge, as I’m always glad to compete and represent Russia. To go to the Universiades is a big honor for me. It will be a question of honor for me to show a good performance there. If it is a revenge, then it will be a revenge for myself to show good skating.

 ワールド出場者の3枠目を決める選考会、ロシアカップファイナルが2月下旬に開かれました。今季苦戦していたSPですが、この大会は素晴らしいパフォーマンスでした。スケーティングの加速とダイナミックなボディームーブメントの連動が益々よくなり、特にStSqの迫力はシーズン一番だったと今でも確信しています(インタビューでもすべてをやりきることができたと本人が述べています)。FPは緊張からかいいときの「冴え」がなく、最終結果4位でこの大会を終えます(206.67)。

youtu.be

※音楽の権利の関係で前半部分の音楽がありません。

 いったんはワールドの代表になったという報道が流れましたが、これはISUにエントリーを出す締め切りの都合上であったようで、ロシアスケート連盟は27人の委員の投票を経てメドベージェワが残りの1枠に決まったと2/27に発表しました。さいたまワールドでスターシャを見ることができないことが決まったときは本当に残念で、ユニバーシアードでいい演技ができるように願うほかありませんでした。

 この後1週間ほどたって、ユニバーシアードの試合を迎えました。18-19シーズンにスターシャはクリーンなパフォーマンスをしていますが、ユニバーシアードのFPが当シーズンの中で1番スターシャの気持ちがスケーティングにのっているパフォーマンスだったと考えています。今なお見返す動画のひとつですし、アンナ・カレーニナプロの集大成です。

youtu.be

 SPとFPが両方うまくいくケースが少なかったのですが、FPだけに限ってみると出場した8試合中6試合で130点を上回る得点をマークしており、そこにこのシーズンのスターシャの成長を感じました。17-18シーズンの成果としては下記の3点をあげます。

①動作がスムーズに
少し「カクカク」したような部分が昨シーズンまでは散見されましたが、今シーズンはしなやかな動きをかなり意識しているように感じました。FPが継続プロで比較しやすいのですが、スケーティングから力みが取れてきているのが大きいかもしれません。

②新技の習得
今シーズンから3F-1Eu-3Sではなく、2A-1Eu-3Sを取り入れました。おそらく単独の2Aや2A-2T(これまで実施)よりもGOEが取りやすいためだと思われますが、成功だったと思います。またハーネス付きではありますが3Aの練習を行っていることが公開されました。 

③自信が演技に

国際大会の出場機会も増え、点数もついてきたことで、演技から自信が滲みでるようになりました。何を見せたいか、これを見てほしいといった演技面の強化も今シーズンの成長点だと思います。

shintorasports.hatenablog.com

◇「なんの意味もなくプログラムの冒頭にアクセルを置いているとお思いですか?」

rsport.ria.ru

 

7 深化ー19-20シーズン

SP:February

FP:Moulin Rouge!

 2019年4月に19-20シーズンのプログラムを発表しました。ここまで早い発表はいままでなかったので、どんなプログラムになっているのかとてもわくわくしながらシーズンが始まるのを待ちました。6月になると強化選手が発表され、スターシャはサブになり、同月下旬に第1戦のスケートアメリカと第5戦のロステレコム杯に出場することが報じられました。

 このシーズンは、アメリカで開かれたAurora Gamesという新しい大会から始まります。この大会はISUの採点とは異なり、3人の審査員が10点満点で評価するというスタイルで開催されたものです。

youtu.be

 一目見てこのプログラムが好きになりました。静かに始まり、はばたくような動作から2A(シーズンを経てこの振付はなくなりました)。3Lzの次のコンビネーションスピンは音楽の変化、激しさを回転速度で表現し、コンビネーションジャンプも音楽と着氷のタイミングを合わせています。このプログラムで特に気に入ったのがStSq。今までのダイナミックさ・力強さに加えて、優雅さが見えるようになりました。アンナ・カレーニナを2シーズンに渡って滑り続けた成果だと考えています。このシーズンのパフォーマンスで順位をつけるなら、このときのSPが1番だと思います。FPは前シーズンのSPを手直ししたものを披露しました。あれほど苦労していたマラゲーニャですが、この大会ではうまくいき、3人の審査員全員から10と評価されました。

 9月上旬のテストスケート、9月下旬のネペラ杯ではミスが目立ち(ネペラ杯は靴の問題があったそうです)、GPSも11位(143.39)、11位(156.94)と振るわず、なかなか調子が上がってきません。復調の兆しを見せたのは、ロシアナショナル1週間前ほどに開催されたサンクトペテルブルク杯です。回転不足やアテンションは取られましたが、SP・FPともにジャンプをかなり戻してきて、次の大会に希望の持てる内容でした。

youtu.be

 ロシアナショナル、FPは転倒の影響かスタミナ不足で終えてしまったけれども、SPの演技後に笑顔のスターシャが見られたのがとてもうれしかった。

サンクト杯で73.50出したので、悔しい気持ちがないわけでもないけれど、冒頭のスケーティング見て、スターシャのスケーティングが戻ってきたと思ったし、詰めるのはこれからだと思うから心配はしてない。FPも思い切って滑り切って笑顔が出るといいな。

 そして年を越して2月。スターシャが、これまで師事していたチェボタリョワコーチのグループを去り、プルシェンコ・アカデミーのヴォルコフのグループで練習していることが報道されたのです。突然のコーチ変更だったのでびっくりしましたが、不調のシーズンだったので何かを変えたいと思ったのかもしれません。

 

8 変化ー20-21シーズン

SP:Seven Nation Army

FP:My Love/Santa Maria/The Devil You Know

 8/15にインスタグラムで新FPの一部が披露されました。これまでのスターシャと1番変わったと感じたのはスケーティングで、沈み込みが減りました。また3Lzと3Fの入りも変わり、なかなか昨シーズン決まらなかった3Lzも戻してきました。9月下旬に開かれたサンクトペテルブルクのテストスケートで1位となり、怪我からの回復、シーズンインに向けてコンディションをあげているのがわかってほっとしていた記憶があります。

 そして迎えたロシアカップ第2戦。回転不足をとられたものの、昨シーズン苦戦したジャンプを着氷し、何より自信を持って楽しそうに滑っているスターシャの姿がうれしかった。FPのChSqのかっこよさ、何回もリピートしました。この大会で5位(196.83)、第4戦は9位(177.79)でしたがなんとかロシアナショナルに進出しました(女子選手のなかで出場回数はリーザに次いで2番目に多い5回となりました)。ナショナルは難しい大会になりましたが、怪我を経てこの舞台に再び戻ってきて演技を見せてくれたことに感謝。

www.youtube.com

 このシーズンのプログラムは、この時のスターシャのスケーティングにあったプログラムだったと思います。より具体的に言えば、スケーティングの重心が上がったことで音の高い曲、明るい曲との親和性が高くなったのです。年末年始にはプルシェンコのショーに出ていましたが、ソロの演技を見るとスターシャがこの1年でいかに変わったかがわかると思います。2A前の踏切、軸、そしてスケーティングの質。自然な流れで演技できるようになったところにスターシャの成長を感じました。

youtu.be

 1月になると、スターシャがヴォルコフのグループを去りブツァエワコーチのもとで練習を始めたことが発表されました。移籍理由については当事者それぞれから違った見解が出されていますが、スターシャは練習プロセス上の問題をあげています。

 ブツァエワをコーチに迎えて以降は、3月にモスクビッチ杯、4月のサンクトペテルブルグフィギュアスケート連盟競技会(177.62)に出場しました。SPにトリプルジャンプが1つも入らない試合もあれば、最小限のミスに抑えてまとめたFPもありました。まだ移籍して間もなく、具体的にどこが変わったかはこの時はわかりませんでしたが、それは来季の試合で見せてくれるだろうから楽しみに待とう、と考えていました。

 

9 引退ー21-22、22-23シーズン

SP:Gypsy Dance

FP:My Love/Santa Maria/The Devil You Know(継続プロ)

 7月にプログラムの発表があり、9月のショーで19-20シーズンのSPに使用していたFebruaryと、新しいSP「Gypsy Dance」を披露しました。衣装はベティナ・ポポワが18-19シーズンFDで使用していたものを使ったそうです。

m.vk.com

 このプログラムで特に注目したのは手(腕)の使い方。1つ1つの振り付けがパワフルでものすごく感情がこもっています。そして雄大で重厚なスケーティング。その2つが見事に調和し、ここ数年取り組んでいたフットワークとムーブメントの連動性の課題のゴールが見えたような感じがしました。競技会で披露していないので未見の方も多いのではないかと思うのですが、是非1回見てほしい動画です。スターシャの集大成がここにあります。

 怪我に加えてコロナに罹患したことが影響して試合に出れなかったことが12月に明らかになりました。2022年7月に1度引退報道が出て、2023年1月に本人から現役引退が発表されました。

 

10 おわりに

 スターシャの成長を見守ることができて幸せな7年間でした。これからの人生が充実したものになるよう祈るとともに、氷上でまた会えたらうれしいです。